私はあなたのお母さんじゃない!

2018年10月25日 公開

 

 「私はあなたのお母さんじゃない!と妻から叱られました」
ああ、それはそうですね。わかります。男性には分かりづらいことかもしれませんが、多くの女性にはその意味が瞬時に理解できます。

 結婚し、子どもができると多くの夫婦は互いのことを「お父さん」「お母さん」あるいは「パパ」「ママ」と呼び合いますよね。それは、生まれてきた赤ちゃんに「あなたの親は私たちですよ」と教えるための方法の一つです。乳幼児から児童期の子どもに対してそれはとても大切で意味深いことですが、では、夫婦の間ではどうでしょう。

 「お父さん」と「お母さん」は求められる役割が異なります。父性的なものは、子どもへ教育や冒険の心を渡しますし、家族内での権威的な役割や外に対しては家族を守るために戦う意味も含まれます。対して母性的なものは、子どもに対する躾(しつけ)や世話、子どもを援助し擁護する役割です。父性と大きく異なる面は、子どもという幼い存在を育てるために、ひたすら世話を続けることです。

 朝起きたらあいさつをし、着替えて歯磨きをする、出かけときは家族にあいさつし、外で他人に会ったらあいさつをする、食事の前後もあいさつをして、道路は右側を歩き、他者に迷惑をかけない、脱いだ服は洗濯機の横へ持って行く、出した物は片付ける、自分でできることを自分の手で行うなど、日々の生活習慣を根気よく繰り返し伝えて、将来成長し一個の社会人として社会に受け入れてもらえるよう子どもに習慣を身につけさせるのが「お母さん」の大切な役割です。

 「私はあなたのお母さんではない」という言葉には、さまざまな意味が含まれていますね。

 すでに大人であるあなた(夫)に対して、躾や生活習慣を身につけさせる必要はありませんし、今さらその必要があると感じさせないでほしいものでもあります。また逆に、夫が妻のことを「お母さん」と呼ぶかぎり、妻は夫から母親役割を求められていると無意識に感じて夫に「躾」をしてしまいます。

 子どもたちが就学年齢を終える頃には、夫婦間での呼び方も「お父さん」「お母さん」ではなく、子どもが生まれる前の新婚時代の呼び方に戻してもいいのではないかと思います。

 子育てを終えた第二の結婚は、一組の男女であることを認め直して名前を呼ぶことから始めてくださいね。夫婦の関係が健やかに保たれることは、自然と家族の健康にもつながるはずです。

池内ひろ美(いけうち・ひろみ)
家族問題評論家、八洲(やしま)学園大学教授
岡山市生まれ。恋愛や結婚・離婚、親子関係などのコンサルティングから、作家、女優、大学教授など幅広い分野で活躍。コンサルティングでは、これまで3万7千件以上の相談に応じている。さらに、メディア出演や執筆活動、Girl Power代表理事などの職務を通して、世の中への情報発信や啓蒙活動も行っている。